アメジストギターズコラム Part2 / Orville by Gibson ~国産初の Les Paul その魅力について~ 後編
前編では、ブランド誕生の経緯から、寺田楽器製とフジゲン製の区別などについて記載していきましたが、後編では Orville by Gibson の魅力の本質について進めていこうと思います。
まずはOrville by Gibson のラインナップを理解して行くことにします。
山野企画や楽器店特注品を除くと、カタログモデル最高峰はLPS-QM。無垢のキルトメイプルトップを採用したフラッグシップモデルで、定価は228,000円。
同じく無垢のフレイムメイプルトップを採用したLPS-FMが定価198,000円となり、この2機種が最上位機種です。
どちらも滅多に流通しない貴重なギターです。海外のギターショップなどでは非売品扱いになっているショップすら存在します。
ただし、最上位機種が登場するのは1992年のカタログからとなり、1988年から1992年迄のOrville by Gibson Gシリアルは寺田製となります。
いわゆる前編で述べたフジゲンとの混在次期は、by GibsonではないOrville名義のモデルがラインナップされる1990年辺りからとするのが仮説です。下記画像をご参照下さい。by GIBSONの寺田製は定価93,000円で、最初のカタログデビューをしています。僕自身もギブソンとの裁判和解後のブランドという先入観から、1990年以前の初期辺りにもフジゲン製があるのでは?と思っていた事があるのですが、これは間違えた認識だったかも知れません。画像にあるように最初期の広告だとES-335が98,000円設定となり、1992年の段階で110,000円定価に改正されています。
更にこの下の画像をご参照頂きたいのですが、いわゆる by Gibson ではないLPC-75がカタログ掲載されるのが、1990年のカタログとなり、カタログ撮影前年には個体として存在しているのが普通と考えたとしてもフジゲン製は1989年辺りからではないだろうか?とも予想しています。この点については不確定な情報とお考え下さい。
それでは明確になっている部分から突き詰めてみます。
Orville by Gibson としてのいわゆるバイギブの最終期は1995年です。この点から明らかになることは1996年以降は基本的にフジゲンメイドに移行しており、Epiphone Japan に引き継がれる直前にはシリアル自体がシールとなる韓国製が存在します。まるでGRECOと同じ流れを継承している点が、注目したい箇所です。( 韓国製グレコもシリアルはシールで剥がれてしまう為、シリアルがなければ韓国製とほぼ断定します )
そして93年を目安に、寺田製のby Gibson レスポールモデルは無くなっていると考えています。
この年代を考察すると、混在している寺田製とフジゲン製を見分ける材料にもなるでしょう。
フジゲンはナットを接着してから、バインディング部分も含めてクリア塗装をするので、ナットがオリジナルなら本家同様に、ここも判別材料にはなると思います。
いよいよ、本質に迫ります。
寺田製とフジゲン製…どちらを選びますか?という核心部分について進めて行きます。
下記画像をご参照下さい。左手のスタンダードが91年寺田製LPS-Tで、93年のカタログにて掲載されるLPS-59Rの前身モデルです。前編の前記事をご覧ください。カタログ画像を掲載しております。右のカスタムが95年製のフジゲンメイドによるOrville LPC-75です。
各個体の詳細は後日、両モデルの商品ページをアップする際にコメントとして掲載致しますが、寺田製のby Gibsonは非常に素晴らしい国産レスポールであると結論付けたいと思います。
その理由を書いて行きます。
かなり長い前置きになりますが、どうか最後までお付き合い下さいますと幸いです。
まずはピックアップの話しからです。
ピックアップ自体が楽器とさえ評価されているGIBSONの発明品の中でも、トップクラスのパーツがPAFです。
リプレイスメントピックアップの多くはオールドPAFの再現を目指しました。
整理しましょう。
ハンバッキングピックアップ以前のギブソンのシングルコイルピックアップはP-90である事は知られています。これ型番があるんです。P-480という。
1956年から1957年にかけて新開発のハンバッキングピックアップが登場します。型番はP-490。
特許出願中であった為、それを意味するシールに書かれたPatent Applied For の頭文字をとってPAFである事はあまりにも有名ですよね。
初期の1956年から1957年にかけての新開発ピックアップP-490には、このPAFステッカーは貼られていません。通称ノーステッカードPAFです。
マグネットもアルニコ2.3.4.5が混在します。
後期の1961年からの通称 Late PAFでは、アルニコ5マグネットで落ち着き、1962年に特許が下りてシールにはパテントナンバーが明記されます。
通称ナンバードPAFです。パテントナンバーがこのピックアップの物ではない…などの話しは割愛しますが…
以降、ナンバードPAF、T-Top PAF ( 通称 Tバッカー )、
Tim Shaw PAF ( 通称 ニューPAF )、迄は一環してアルニコ5マグネットです。
刻印ナンバードという呼び方はTバッカーとニューPAFを区別出来ていないので、あまり的確な表現ではないですね。
ここまでが、いわゆるヴィンテージギブソン、カラマズー時代に採用されていたPAFの系統を引き継いだギブソン純正ピックアップです。
1986年の経営母体変更後に、4芯に対応出来る基盤ピックアップが1987年から1988年頃に登場します。
HB-RとHB-Lという型番で、OrvilleのラインナップではTM490と表記される事もあります。マグネットは同じくアルニコ5ですが、歴史上最も短命に終わった不評のあるピックアップでした。
Orvilleの最初期にマウントされていたギブソンピックアップの多くはこの基盤ピックアップなのですが、ギブソンはまだ在庫としてのニューPAFがあった為、カタログと異なるニューPAFマウントが見受けられる次期が、この88年から92年辺り迄です。
新体制ギブソンの開発した新たなレスポール、いわゆる初期ギブソンレスポールクラシックにも見受けられます。
1991年…
不評だった基盤ピックアップに変わり、新体制ギブソンはついに原点回帰に方向転換。
長年のアルニコ5マグネットではなく、アルニコ2マグネットを使用した新開発ピックアップが登場する過渡期に入っていました。
アルニコ2マグネットを使用したPAFへの原点回帰を目指したピックアップは57クラシックと名付けられ、同じく時代のニーズにも対応すべく、ややミッドを持ち上げるパワーを増したアルニコ2ピックアップを490R & 498Tとして製品化します。下記画像は57クラシックです。
この時代背景から、国産レスポール、Orville by Gibsonにも新開発ピックアップはマウントされて行くことになります。 ( by Gibson でないものは国産オリジナル )
カタログ上は93年のオービルバイギブソンに57クラシックも明記されるようになりますが、過渡期には、貴重なピックアップがマウントされています。
オールドの歴史をなぞるかの如く、57クラシック初期開発段階に於いては、復刻版PAFシールの貼られていない、敢えて言うならノーステッカード57クラシックが存在するのです。
当店に入荷した91年製が正にコレ!リアは498Tでしょうが、フロントは貴重すぎるアルニコ2マグネット回帰の最初期のノーステッカード57クラシックとの組み合わせなのです…下記画像はこの91年製のフロントとリアです。
これが更にこの寺田製Orville by Gibson LPS-Tの音の良さに繋がっているんです!
そして、最も大きな魅力は薄めのグリップかつネックジョイントの違いです。造り自体はフジゲン製より粗いのですが、サスティーンも鳴りも、出音も明らかに今迄の国産レスポールコピーをも上回っている感は否めません。
過去に所有していたZドライのGRECO EGF-1200 Super Real よりも全盛期のTokai LS-120よりも好印象でした。
ひとつ言えることはギターの出音は加工精度で決まる訳ではない…という事ですかね…
LPS-59Rの前身モデルにあたる機種が、寺田製の当時定価125,000円のこのモデルLPS-Tです。
ギブソンヒストリックコレクションのディープジョイントの加工と寺田やフジゲンのディープジョイントの加工では、明らかに本家のヒスコレに軍配ですが…
アメリカ製にはアバウトな部分も多々ある為、ナット溝やブリッジコマの加工などは、日本製より粗いモノも多々あります。
日本製以上に個体差があるのは、ハンドメイド部分が増えれば増えるほどアメリカ製にはあり得るのです。
いわゆる寺田製の粗さは、ある意味では本家に通じる部分すら感じます。
加工精度が高いギターが全て鳴るならヴィンテージ神話は崩壊します。パーツを含む技術力は進歩している点も否めないからです。
50年代や60年代のポットより70年代のポットが優れているという説もあるくらいです。
ただし、材に関しては明らかに50年代から60年代を上回ることは不可能です。
この寺田製も、91年製ながらネックコンディションなどは非常に良く、90年代再評価を裏付けています。
更には過渡期にしか存在しないギブソン純正ピックアップをマウントしており、91年の段階に於いては存在しないフラッグシップモデルLPS-FMとLPS-QMを除外するとしたなら…
寺田製 Orville by Gibson の最高峰はここなのではないだろうか…
そんな思いを強く感じています。
トップはラミネート、いわゆる貼りトラですし、ラッカー塗装でもありません。ましてや、ナッシュビルタイプのブリッジなど、オールドの再現度が高い訳でも何でもないのですが…
少なくとも、このギターはフェイクではないギブソンレスポールのトーンを持ち、かつプレイヤビリティーに優れています。
「もう一つのギブソン」サウンドは確実にこのギターからは感じられます。
前編、後編共に長文となりましたが、最後まで読み進めて頂きました皆様に御礼を申し上げます。
レスポールを名乗れる国産ギブソン。もう二度とこのような形でブランドが復活する事はないでしょう…
僕の中では唯一所有したいと思わせる国産レスポールは今やこのOrville by Gibson 寺田製のみです。
まずはOrville by Gibson のラインナップを理解して行くことにします。
山野企画や楽器店特注品を除くと、カタログモデル最高峰はLPS-QM。無垢のキルトメイプルトップを採用したフラッグシップモデルで、定価は228,000円。
同じく無垢のフレイムメイプルトップを採用したLPS-FMが定価198,000円となり、この2機種が最上位機種です。
どちらも滅多に流通しない貴重なギターです。海外のギターショップなどでは非売品扱いになっているショップすら存在します。
ただし、最上位機種が登場するのは1992年のカタログからとなり、1988年から1992年迄のOrville by Gibson Gシリアルは寺田製となります。
いわゆる前編で述べたフジゲンとの混在次期は、by GibsonではないOrville名義のモデルがラインナップされる1990年辺りからとするのが仮説です。下記画像をご参照下さい。by GIBSONの寺田製は定価93,000円で、最初のカタログデビューをしています。僕自身もギブソンとの裁判和解後のブランドという先入観から、1990年以前の初期辺りにもフジゲン製があるのでは?と思っていた事があるのですが、これは間違えた認識だったかも知れません。画像にあるように最初期の広告だとES-335が98,000円設定となり、1992年の段階で110,000円定価に改正されています。
更にこの下の画像をご参照頂きたいのですが、いわゆる by Gibson ではないLPC-75がカタログ掲載されるのが、1990年のカタログとなり、カタログ撮影前年には個体として存在しているのが普通と考えたとしてもフジゲン製は1989年辺りからではないだろうか?とも予想しています。この点については不確定な情報とお考え下さい。
それでは明確になっている部分から突き詰めてみます。
Orville by Gibson としてのいわゆるバイギブの最終期は1995年です。この点から明らかになることは1996年以降は基本的にフジゲンメイドに移行しており、Epiphone Japan に引き継がれる直前にはシリアル自体がシールとなる韓国製が存在します。まるでGRECOと同じ流れを継承している点が、注目したい箇所です。( 韓国製グレコもシリアルはシールで剥がれてしまう為、シリアルがなければ韓国製とほぼ断定します )
そして93年を目安に、寺田製のby Gibson レスポールモデルは無くなっていると考えています。
この年代を考察すると、混在している寺田製とフジゲン製を見分ける材料にもなるでしょう。
フジゲンはナットを接着してから、バインディング部分も含めてクリア塗装をするので、ナットがオリジナルなら本家同様に、ここも判別材料にはなると思います。
いよいよ、本質に迫ります。
寺田製とフジゲン製…どちらを選びますか?という核心部分について進めて行きます。
下記画像をご参照下さい。左手のスタンダードが91年寺田製LPS-Tで、93年のカタログにて掲載されるLPS-59Rの前身モデルです。前編の前記事をご覧ください。カタログ画像を掲載しております。右のカスタムが95年製のフジゲンメイドによるOrville LPC-75です。
各個体の詳細は後日、両モデルの商品ページをアップする際にコメントとして掲載致しますが、寺田製のby Gibsonは非常に素晴らしい国産レスポールであると結論付けたいと思います。
その理由を書いて行きます。
かなり長い前置きになりますが、どうか最後までお付き合い下さいますと幸いです。
まずはピックアップの話しからです。
ピックアップ自体が楽器とさえ評価されているGIBSONの発明品の中でも、トップクラスのパーツがPAFです。
リプレイスメントピックアップの多くはオールドPAFの再現を目指しました。
整理しましょう。
ハンバッキングピックアップ以前のギブソンのシングルコイルピックアップはP-90である事は知られています。これ型番があるんです。P-480という。
1956年から1957年にかけて新開発のハンバッキングピックアップが登場します。型番はP-490。
特許出願中であった為、それを意味するシールに書かれたPatent Applied For の頭文字をとってPAFである事はあまりにも有名ですよね。
初期の1956年から1957年にかけての新開発ピックアップP-490には、このPAFステッカーは貼られていません。通称ノーステッカードPAFです。
マグネットもアルニコ2.3.4.5が混在します。
後期の1961年からの通称 Late PAFでは、アルニコ5マグネットで落ち着き、1962年に特許が下りてシールにはパテントナンバーが明記されます。
通称ナンバードPAFです。パテントナンバーがこのピックアップの物ではない…などの話しは割愛しますが…
以降、ナンバードPAF、T-Top PAF ( 通称 Tバッカー )、
Tim Shaw PAF ( 通称 ニューPAF )、迄は一環してアルニコ5マグネットです。
刻印ナンバードという呼び方はTバッカーとニューPAFを区別出来ていないので、あまり的確な表現ではないですね。
ここまでが、いわゆるヴィンテージギブソン、カラマズー時代に採用されていたPAFの系統を引き継いだギブソン純正ピックアップです。
1986年の経営母体変更後に、4芯に対応出来る基盤ピックアップが1987年から1988年頃に登場します。
HB-RとHB-Lという型番で、OrvilleのラインナップではTM490と表記される事もあります。マグネットは同じくアルニコ5ですが、歴史上最も短命に終わった不評のあるピックアップでした。
Orvilleの最初期にマウントされていたギブソンピックアップの多くはこの基盤ピックアップなのですが、ギブソンはまだ在庫としてのニューPAFがあった為、カタログと異なるニューPAFマウントが見受けられる次期が、この88年から92年辺り迄です。
新体制ギブソンの開発した新たなレスポール、いわゆる初期ギブソンレスポールクラシックにも見受けられます。
1991年…
不評だった基盤ピックアップに変わり、新体制ギブソンはついに原点回帰に方向転換。
長年のアルニコ5マグネットではなく、アルニコ2マグネットを使用した新開発ピックアップが登場する過渡期に入っていました。
アルニコ2マグネットを使用したPAFへの原点回帰を目指したピックアップは57クラシックと名付けられ、同じく時代のニーズにも対応すべく、ややミッドを持ち上げるパワーを増したアルニコ2ピックアップを490R & 498Tとして製品化します。下記画像は57クラシックです。
この時代背景から、国産レスポール、Orville by Gibsonにも新開発ピックアップはマウントされて行くことになります。 ( by Gibson でないものは国産オリジナル )
カタログ上は93年のオービルバイギブソンに57クラシックも明記されるようになりますが、過渡期には、貴重なピックアップがマウントされています。
オールドの歴史をなぞるかの如く、57クラシック初期開発段階に於いては、復刻版PAFシールの貼られていない、敢えて言うならノーステッカード57クラシックが存在するのです。
当店に入荷した91年製が正にコレ!リアは498Tでしょうが、フロントは貴重すぎるアルニコ2マグネット回帰の最初期のノーステッカード57クラシックとの組み合わせなのです…下記画像はこの91年製のフロントとリアです。
これが更にこの寺田製Orville by Gibson LPS-Tの音の良さに繋がっているんです!
そして、最も大きな魅力は薄めのグリップかつネックジョイントの違いです。造り自体はフジゲン製より粗いのですが、サスティーンも鳴りも、出音も明らかに今迄の国産レスポールコピーをも上回っている感は否めません。
過去に所有していたZドライのGRECO EGF-1200 Super Real よりも全盛期のTokai LS-120よりも好印象でした。
ひとつ言えることはギターの出音は加工精度で決まる訳ではない…という事ですかね…
LPS-59Rの前身モデルにあたる機種が、寺田製の当時定価125,000円のこのモデルLPS-Tです。
ギブソンヒストリックコレクションのディープジョイントの加工と寺田やフジゲンのディープジョイントの加工では、明らかに本家のヒスコレに軍配ですが…
アメリカ製にはアバウトな部分も多々ある為、ナット溝やブリッジコマの加工などは、日本製より粗いモノも多々あります。
日本製以上に個体差があるのは、ハンドメイド部分が増えれば増えるほどアメリカ製にはあり得るのです。
いわゆる寺田製の粗さは、ある意味では本家に通じる部分すら感じます。
加工精度が高いギターが全て鳴るならヴィンテージ神話は崩壊します。パーツを含む技術力は進歩している点も否めないからです。
50年代や60年代のポットより70年代のポットが優れているという説もあるくらいです。
ただし、材に関しては明らかに50年代から60年代を上回ることは不可能です。
この寺田製も、91年製ながらネックコンディションなどは非常に良く、90年代再評価を裏付けています。
更には過渡期にしか存在しないギブソン純正ピックアップをマウントしており、91年の段階に於いては存在しないフラッグシップモデルLPS-FMとLPS-QMを除外するとしたなら…
寺田製 Orville by Gibson の最高峰はここなのではないだろうか…
そんな思いを強く感じています。
トップはラミネート、いわゆる貼りトラですし、ラッカー塗装でもありません。ましてや、ナッシュビルタイプのブリッジなど、オールドの再現度が高い訳でも何でもないのですが…
少なくとも、このギターはフェイクではないギブソンレスポールのトーンを持ち、かつプレイヤビリティーに優れています。
「もう一つのギブソン」サウンドは確実にこのギターからは感じられます。
前編、後編共に長文となりましたが、最後まで読み進めて頂きました皆様に御礼を申し上げます。
レスポールを名乗れる国産ギブソン。もう二度とこのような形でブランドが復活する事はないでしょう…
僕の中では唯一所有したいと思わせる国産レスポールは今やこのOrville by Gibson 寺田製のみです。